美術館「えき」KYOTOで開催中の特別展の感想です。
伊勢丹の7階にある展示専門の美術館で、京都駅直結なので利便性は抜群です。
概要
展覧会 | 期間 |
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[特別展] THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦 | 2023/06/24 ~ 2023/07/30 |
明治以降に広まった「新版画」にスポットを当てた特別展です。
明治に入り衰退していた版画を盛り上げようとして生まれたもので、その中心となった人物が版元の渡邊庄三郎です。
伝統的な技法を使いながら、新しい技術や題材により江戸時代の浮世絵とは違った面白味があります。
特徴の一つが「ざら摺」です。
摺った跡が見えるので、忌憚なく言うと、綺麗に見えないので、気になる人は気になると思います。
・ざら摺
新版画の技法。バレン筋をあえて出す。
「ごま摺」を発展させたもの。
・ごま摺
バレンの動かし方により、ごまを撒いたように仕上げる技法。
有名なのは川瀬巴水、伊東深水あたり。
小原祥邨(古邨)は2000年代に見つかった200点以上の花鳥画が2018年に初公開されたことで、話題になっていました。
北斎や広重のように誰もが見たことある作品はありませんが、伝統的な作品から近代の作品と、画風は豊富です。
絵をあまり知らなくても1つくらい好きな絵が見つかるかも。
新版画に関する論文がありました。
小山周子氏の「大正新版画の研究-版元を中心とした美術の成立、構造と展開」(PDF)です。
全文読むのは大変ですが、画像も貼られているので絵だけ見るのも良いですよ。
巡回展
期間 | 美術館 | 都道府県 |
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2022/07/16~08/28 | ひろしま美術館 | 広島 |
2022/09/10~11/06 | 茅ヶ崎市美術館 | 神奈川 |
2023/01/28~03/19 | 高知県立美術館 | 高知 |
2023/06/24~07/30 | 美術館「えき」KYOTO | 京都 |
感想
江戸時代の版画とは違った技法や題材があって面白いです。
個人的には川瀬巴水が好きなので、沢山見れて嬉しかったですが、客観的に見ると他の画家と比べたら多過ぎかもしれません。
新版画がテーマなので、できるだけ多くの作家にスポットが当たるのが一番良いかな。
吉田博、小原古邨の作品はTVで見てから気になっていたので、直接見れて良かったです。
まぁ、もっと見たくなりました。
以下に印象に残ったものを書いていきます。
橋口五葉|化粧の女
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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参考1 | 橋口五葉 | 化粧の女 | 1918 | – | ー |
顔の描写は明治以降という印象ですが、身体は手が少し小さかったり伝統的な名残りを感じます。
解説には喜多川歌麿の美人大首絵を思わせる作品とありました。
背景に雲母摺が使われていますが、写楽の背景より白いです。
雲母摺も白雲母摺、黒雲母摺、紅雲母摺と、種類があるので、こちらは白かも。
バートレット|ホノルル浪乗り
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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19 | チャールズ・W・バートレット | ホノルル浪乗り | 1919 | – | ー |
これはインパクトのある浮世絵です。
遠目に見ると神話っぽい絵に見えなくも・・・。
伊東深水|遊女
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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23 | 伊東深水 | 遊女 | 1916 | – | ー |
伊東深水の作品には大正時代に流行った不気味な雰囲気があるものが多いです。
この作品も目付きに不気味さがあります。
伊東深水|現代美人集第一輯 汐干狩り【落書】
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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45 | 伊東深水 | 現代美人集第一輯 汐干狩り | 1931 | – | ー |
不気味な絵も多いですが、この絵は綺麗で好きです。
頭の手ぬぐいの青海波と貝の着物が爽やかです。
伊東深水|現代美人集第二輯 洗ひ髪
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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49 | 伊東深水 | 現代美人集第二輯 洗ひ髪 | 1936 | – | ー |
こちらも全体的に青を使って、入道雲が夏らしさを感じさせます。
橋口五葉にも同じ題材で似た構図の作品があります。
1920年なので時代的にはこちらの方が先です。
洗い髪で思い出すのは「お妻の洗い髪」の写真。
明治時代の芸妓です。
洗い髪のまま映るのは当時では無かったことですが、これがかえって話題になったそうです。
川瀬巴水|東京二十景 芝増上寺
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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82 | 川瀬巴水 | 東京二十景 芝増上寺 | 1925 | – | – |
川瀬巴水の作品でも知名度が高く、人気のある作品だと思います。
よく見ると「ざら摺」も使われていました。
川瀬巴水|鶴岡八幡宮
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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92 | 川瀬巴水 | 鶴岡八幡宮 | 1931 | – | – |
色が鮮やかで綺麗でした。
サイズも大きめの49.0×32.9だったので、細かい所もよく見えます。
川瀬巴水|箱根宮の下 富士屋ホテル
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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114 | 川瀬巴水 | 箱根宮の下 富士屋ホテル 春/夏/秋/冬 | 1949 | – | – |
<春>
<夏>
<秋>
<冬>
色だけ変えているのかと思いましたが、よく見ると細かい違いがあります。
春と秋は色以外は同じっぽいです。
なのでこれを基準とした場合、夏と冬には下記の違いがあります。
・夏:アメリカ国旗が無い、雲の形が違う
・冬:アメリカ国旗が無い、右側の人が3人いない、
雲が無く雪が降ってる、山や木の描線が異なる
せっかく並んでるので見比べるのも面白いです
川瀬巴水|雪庭のサンタクロース【落書】
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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117 | 川瀬巴水 | 雪庭のサンタクロース 『The Japan Trade Monthly』表紙 | 1950 | – | ー |
川瀬巴水のサンタクロースは初めて見ました。
場所は記載がなく、ネットで庭園の写真を漁ってみましたが、どこかわかりませんでした。
川瀬巴水は各地を旅しているので地域を絞るのも難しいです。
サンタがいるし、実在する場所ではないのかもしれません。
モデルになった場所がある気はします。勘だけど。
小原祥邨|雪中南天に鶫
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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174 | 小原祥邨 | 雪中南天に鶫[原画] | 昭和初期 | – | – |
175 | 小原祥邨 | 雪中南天に鶫 | 昭和初期 | – | – |
176 | 小原祥邨 | 雪中南天に瑠璃鳥 | 昭和初期 | – | – |
最初は茶色の鶫だったのですが、最終的に瑠璃鳥になったようです。
地味だったから、「青い鳥」が知られたことで「南天=難を転ずると」と縁起の良い組み合わせにした、という説があります。
白い雪に青い鳥は見慣れない組み合わせなので、鶫の方が好きかな。
・青い鳥
ベルギーのモーリス・メーテルリンクが1908年に発表した童話。
貧しいきこりの兄妹、チルチルとミチルが幸せの青い鳥を探しにいく物語。
日本では1911年には日本語版が出版されていたようです。
小原祥邨|金魚鉢に猫【落書】
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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179 | 小原祥邨 | 金魚鉢に猫 | 1931 | – | 背景:橙一色 |
180 | 小原祥邨 | 金魚鉢に猫 | 1931 | – | 背景:床板と簾あり |
2種類展示されていました。
昔の日本画は遠近感が合ってないことが珍しくないですが、床板があると箱庭の角度に違和感があります。
気にするのは野暮かもしれませんが。
<背景:橙一色>
<背景:床板と簾あり>
小原祥邨|鯉と緋鯉
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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182 | 小原祥邨 | 鯉と緋鯉[原画] | 1935 | – | – |
183 | 小原祥邨 | 鯉と緋鯉 | 1935 | – | – |
鱗や目の周りに金があしらわれていて豪華な仕上がりになってました。
原画の方が金が濃かったです。
新作版畫展覧目録
No | 作家名 | 作品名 | 年 | 期間 | 備考 |
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資料2 | – | 新作版畫展覧目録 | 1921 | – | – |
作品の価格も書かれていたので、誰がどの位か見てみました。
一部の画家を抜粋して大体の価格を並べてみました。
画家名 | 価格(円) |
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チャールズ・W・バートレット | 30,00~50,00 |
キース嬢 | 10,00~35,00 |
川瀬巴水 | 3,00 |
伊東深水 | 5,00~15,00 |
吉田博 | 20,00 |
バートレットと、エリザベス・キースが上位2人です。
2人とも今日初めて知ったので、全然知りませんでしたが、当時は評価が高かったんですね。
美術品の価値と世間の知名度が一致しているとは限らないので、価格だけでは明言はできませんが、新版画に注目が集まれば再評価される時が来そうです。
ちなみに、女性画家として「レーモンド夫人」という名前も1点だけ載っていたのですが、女性の名前の載せ方に時代を感じますね。
それにしても、100年前に版画家として外国人の女性が活躍していることに驚きです。
以上
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