扇子の扇面を貼りかえたことがあるので、その手順を記載します。
綺麗に折り目を付けて貼るのが難しかったです。
概要
扇面がボロボロになってきたので、新しいのに変えようと思ったのが発端です。
最初は買うつもりで探していたのですが、たまたま京都国立博物館のミュージアムショップで見かけた長谷川等伯の「松林図屏風」の扇子が気になりました。
元々好きな作品だったこともあり、この絵の扇子が欲しくなりました。
ただ、構図的に満足では無かったので、悩んだ結果、自分で模写して作ることにしました。
扇子の基本的な部位の用語は下記です。
【美術情報】長谷川等伯「松林図屏風」
長谷川等伯は安土桃山時代から江戸初期に活躍した絵師です。
「松林図屏風」は六曲一双の屏風画で、等伯の代表作の一つです。
下絵を屏風に仕立てたという説がありますが、墨が高級なもの、松の配置が屏風の手前と奥を意識しているので下絵ではないとの説もあり、考察の尽きない作品です。
凸版印刷さんの動画で見ることができます。
(VRの公開は終了)
・長谷川等伯(1539-1610)
安土桃山から江戸初期にかけて活躍した日本画家。
初期の頃は「信春」の号を使用していた。
能登国七尾(現在の石川県)出身で、下級武士の奥村家に生まれる。
染物屋であり、雪舟門下の等春の門人である長谷川宗清(宗浄)の養子となる。
等春から直接学んだ記録は無いが、「信春」と「等伯」の1字は等春から取ったとされる。
自身を「雪舟五代」を称し、雪舟の正当な後継を主張。
長谷川派の始祖としてを狩野派に対抗する存在となる。
キット
手作りキットはタイプが色々あります。
自分の目的に合っているかは確認した方がいいです。
ちなみに、扇子の一般的なサイズは下記です。
①紙と骨が接着済タイプ
これは無地の扇子と無地のシールがセットになっていて、シールに絵を描いたり印刷したりして扇子に貼るタイプです。
直接、字や絵を描くこともできますが、ガタガタになるので流石に厳しいかと。
お手軽であることは間違いないです。
②紙と骨が未接着タイプ
紙が接着前なので描きやすい状態です。
折り目は付けてくれているので安心です。
紙は二重になっていて、隙間に骨を差し込みますが、接着に手間がかかるようです。
試作(失敗)
紙の折り方がわからなかったので、とりあえず試してみます。
京扇子のは白竹堂さんのサイトで本来の作り方は紹介されていました。
本来は型紙を使って折るようですが、当然そんなものはありません。
古い扇面を外す
中骨をテープで止めているのは、張りやすいという情報があったからです。
ただ、結果的には閉じた状態で固定することになるので、不要になります。
折り目の幅だけは確認しておきます。
(外した扇面を置いておけば後からでも確認できます)
扇面を作る
絵の位置などの微調整もしたいので、実際に貼るサイズより大きめの紙を用意します。
コンパスで扇面の中心点と外側にアタリを付けます。
(一般のコンパスだと長さが足りないので、テープでペンを固定して延長して使いました。)
コンパスで描いた線に沿って切ります。
最終的な整形は貼り付けた後にはみ出た部分をハサミで切ります。
綺麗に折る方法がわからなかったので、定規と爪楊枝で線を付けてみました。
爪楊枝で線を付けると、谷折りができます。
谷折りを一通り付けたら、後はその真ん中で山折りを付ければ完成です。
それでいける筈でしたが、折り目の間隔が雑だったようで畳むと汚かったです。
やはり試作してみて正解でしたね。
アタリの点や線自体に幅があるので、その中のどこを基準にしたかによって細かい誤差が出ます。
できるだけ正確に折る必要があるので、誤差をできるだけ減らす必要があります。
★ずれる原因について
次回は分度器を使ってみます。
親骨と中骨が合計で30本位(折り目はその倍)あるので、山折谷折を3°単位で付ければ、およそ180°開く想定です。
極端な話ですが、1折で0.3°ずれたら合計で18°の誤差が出るので結構大きいです。
多少ずれていても扇子としては使えるので、ある程度で妥協は必要になると思います。
本番(失敗)
前回の試作で得た経験を踏まえて、本番に取り掛かります。
①扇面の絵を描く
使用する紙は書初め用の半紙も候補として購入していましたが、
その後に100均で補修用の障子紙を発見したので、そっちにしました。
半紙よりも厚めの和紙だったので丁度良かったです。
クラフトショップも探したのですが、模様や色が付いているのばかりだったのでやめました。
画題は長谷川等伯の『松林図屏風』です。
微妙な完成度ではありますが、良しとします。
紙が少しふやけましたが、100均の障子紙なので、贅沢は言えません。
②扇面の紙を折る
前回でも失敗した工程です。
今回もコンパスで扇面の中心点と外側にアタリを付け、その後に分度器でも角度毎の印を付けました。
さらに、コンパスの針穴と分度器で付けた印に定規をあてて、外周の線の所にも印を付けました。
印を付けた後は、印に従って折っていきます。
残念ながら、印と印の距離に誤差はありました。
仕方が無いので、途中から折る前に毎回距離を測ってから折りました。
色々と改善が必要そうですが、見た目は何とかなってそうです。
折り難かったので、中心を切り取りました。
もう不要だと思っていたのですが、失敗でした。
外側と内側の円周は大きめに書いていたので、中心からの正確な距離がわかりにくくなりました。
切る前にコンパスで書いておけば良かったです。
内側に関しては所有のサークルカッターでも幅が届くので切ることが可能でした。
折り目を付けて、内側をカットした状態です。
折った後のことを想像できていなかったので、構図の歪みが少し気になります。
折れた分は縮むので、上側を広がった状態に補正して描くべきでした。
③扇面の紙を貼る/乾燥させる
折りながら貼っていきます。
貼る方向、接着剤(ボンド)がはみ出ないように気を付けながら貼っていきます。
ゴムで縛りつけ、固定させた状態で乾燥させます。
(画質悪…)
ちなみに、畳んだ場合はこんな感じです。
意外と良い感じです。
⑤確認する
次の日、恐る恐る開いて見ると、思っていたよりも出来てそうでした。
いや、よく見ると思っていたよりも開いていない気しました。
改めて確認すると、致命的な失敗が2つ発覚しました。
失敗① 貼り間違い
端の親骨に貼るべき紙の場所が間違ってました。
折り目一つ分、開いてなかったわけです。
折り目の間隔も少し小さかったかもしれません。
失敗② 貼り忘れ
骨が一本余ってました。
骨一つ分、開いてなかったわけです。
①の貼り間違えは使えなくないかな、と考えましたがこれは駄目です。
やり直しです。
本番(成功)
2回の失敗を経て、集大成の3回目です。
①失敗した扇面を外す
前回の失敗した扇子はボンドで思っていたよりもしっかり接着されていました。
力任せに外すと骨を痛めそうだったので、湯に付けました。
紙は綺麗に外れましたが、ボンドが骨にこびりついています。
残ったボンドは歯ブラシで取ったのですが、歯ブラシだと塗装等が削れる可能性があるので、こすり過ぎには注意が必要です。
②扇面の絵を描く
前回よりもアタリを狭くしました。
実際の範囲がはっきりさせたいのと、広くする必要が特に無いです。
墨の濃さは大まかに3段階と考えて描いています。
まずは一番薄い部分を描いていきます。
次に中位の濃さの部分を描きます。
濃淡が出てくるとそれらしくなるのが、水墨画(風)の良い所ですね。
一部、余計な重ね塗りをした所もありますが、気にしないでおきます。
最後に一番濃い部分を描きます。
全体的に足り無さそうな所は描き足して完成です。
見た感じ悪くは無さそうです。
左右の松の距離を狭めたのも正解ですね。
強いて言えば、筆致が大人しいかな。
等伯の原本はもっと勢いがあります。
遠くで見ると「静」ですが、近くで見ると「動」なんです。
③扇面の紙を折る
今回は分度器を使用しませんでした。
折る場所に印を付けて確認しながら折る、を繰り返します。
折る度に確認するので、誤差は軽減されていると思います。
完全には無理ですけどね。
そして、やはりここの工程が一番苦労します。
2~3時間かかります。
④扇面の紙を貼る/乾燥させる
中骨から先に貼って、固定して乾燥させます。
最後に親骨を紙の面に注意して貼り、固定して乾燥させます。
ボンド(接着剤)は薄く骨全体に塗るのが理想です。
量が多いと畳んだ時にはみ出たり、紙がくっついたりします。
とは言え、少ないと剥がれ易くもなるので加減が難しいです。
後で判明しますが、貼る時に絵の左右のバランスは確認した方が良いです。
親骨は片側が表になるので、絵が一部隠れます。
⑤確認する
今回は問題なく貼れてました。
仕上に紙の余った分をカッターでカットします。
天側の余った紙もカットします。
今回は天テープが無いので、3mm程残して裏側に丸め込むことにします。
これで作業は完了になります。
個人的には満足しています。
閉じた状態をみても許容範囲の誤差です。
1点気になったのは左右のバランスです。
右側が少し少なくなっています。
原因としては折り目一個分位足りてないのと、右側が親骨の表になることです。
少し右側を広めの構図にする方が良さそうですね。
その後
この扇子は気に入ってしばらく使っていました。
しかし、残念ながら後に紛失してしまいます。
今となっては記憶が朧気なのですが、バスで落とした可能性が高いのですが、また作ればいいかと、そのままにしてました。
少し汚れてきていたのも諦めた理由の一つです。
以上
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